2006.4.17
『図書館綴り』


純粋百合な作品♪わーい!
ちょっとファンタジーも交えつつ絵自体も仕上げをいつもと変えてみた
なんか色々いい感じに出来た小さな一品。


え―…っと、つづき、つ・づ・き…は
私は図書館でお目当ての本を探している

『あ、みーつけた!』

ぽすっ

『あ、みーつけた♪』

私が本に手を伸ばすと同時に
ふたつの同じ台詞が重なった
そして何かが私に触れる音。

『探しましたよ―、キッサ!』
『見つかっちゃったよ―、ほとり♪』
何事も無かったかのように本を手に取り
その場でさらさらとページをめくる私。
私の名はキサミ、あだ名はキッサ
そして私にくっつくこの子は、ほとり。

『お、あの本じゃない。覚えててくれたんだ!』
『もちろんよ、忘れるわけ無いじゃない』

出会いのキッカケはこの本
上下巻の続き物で、
半年前に私はこの上巻を何気なく手に取った
本日入りたての新刊コーナーにその本はあった
『…お、借りた人一人もいないじゃない』
図書カードの記入欄には何も無く、真っ白だった。
『ふむ…、私が一番乗りね、面白そうじゃないの。借りよ』

結局、その本はとても面白く、返却期日まで3度は読み返した
下巻を読まなきゃ続きはわかりっこないのに、
なぜだか文章が生きてるように新鮮で、読む度に新しい感動を覚えるのだ
こんなことは、初めてだった。
上巻を読みつくして、図書館へ来た私は
満足気に次はいよいよ下巻を借りようと本に手を伸ばした
そのときだった。

ぽすっ

私の肩に寄りかかる子がいた
『その本、私も読みたかったんだけどなぁ』
そう言って、にっと笑った。それがほとりだった。
『え、だってこの本の上巻は新刊だし私が初めて借りてたのよ? 
アナタは上巻読んでないでしょ、いきなり下巻から読む気?』
『いやいや、私が先に読んでたわよ?ほら図書カード』
『え?…そんなはずは…。でも、あれれ??』

その子の手にある上巻の図書カードには、私より前にその子の名前が書いてあった。
納得いかないけど、確かに図書委員のサインもある…
てことは、私より先にこの子は一冊しかない上巻を借りていた…?

『わかったわ、それじゃあ順番に借りるか…』
『どっちかが借りて、一緒に読むってわけね!』
『え、そ、そう…そのつもりだけど、どうする?』
『一緒に借りましょ! これも運命!いいでしょ?』
『はぁ…』

本とともに現れた不思議な少女、ほとり。
その後は、その子のペースに巻き込まれて
結局図書カードには『キサミ&ほとり』と書いて
わざわざ二人一緒に下巻を借りたのだった。
しかもそのまま私の寄宿舎の部屋で一緒に読むことになり…

『普通、こういう活字の本って漫画と違って一人でじっくり読む方が話しに入り込めるし、
読みやすいと想ってたのに…』
『ね? 私とだと問題なく読めるでしょ?』
『反論出来ない…。』
『あははっ♪』
『それにしてもほとりって、何処のクラスよ? 全然見た事ないんだけど』
『ん―、内緒! そのほうが面白いじゃない?この本みたいに』
『ふふっ、何よそれー!』
そして気付いたらこのままお付き合いしていた
というわけだ。

・・・。
そして現在に至る

『あの時は、ほとりはこの本の精かと本気で想ったものだわ』
『あはは、第一印象としてはバッチリだったかな?』

ナゾの多い出会いだった少女:ほとりだが、その正体は図書委員で
私がこの本を借りる姿を見て付き合いたいなと想ったのだという。
いわゆる一目惚れね!と彼女は冗談めかしてそう言う
彼女が図書委員なら図書カードの謎も解ける…はずだったのだが
本当に不思議なのはあの本の方だった。
不思議な事にその後図書カードに記入された名前も日付もみんなバラバラに飛んでいるのだ、
同じ月の16日に借りた人の前が29日だったり、年代まで飛んでいたことも在る。

『きっと、この本自体が不思議のかたまりなのね』
『そうとしか思えないね。…私たち以外にも、この本を借りた人の数だけ違う物語があるに違いないわね』
『この図書館のあらゆる時代、時間がこの本の前には共有されてるんだなぁ…』

あの出会いから一年か。

『また、一緒に読む?』
『うん、さっさと宿題終わらせたら。秘蔵のお茶も淹れてね!』




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